愛知県豊田市 | 医療法人Well-being だいせい歯科医院

コラム

ラバーダムやっていますか?


こんにちは。豊田市にあります、だいせい歯科医院です。

今回は『ラバーダム』についてご説明します。
なぜかといいますと以前お電話で初診の方から『ラバーダムはやっていますか?』と質問を受けたからです。

①ラバーダムって何?

ラバーダムは、今から、およそ150年前(1864年)アメリカの開業医の先生が考案したステムです。ラバーダム防湿というのが正式ですがラバーダムと略されることが多いようです。それは防湿だけにとどまらず多くの利点や目的があるためです。

主に根管治療(神経を取ったり、神経がすでに取ってある歯の再治療)や虫歯の修復処置の際に用いられるゴムのマスクをして患歯だけを露出させるシステムです。治療ではなく治療の前処置にあたります。

根管治療の際には唾液が患歯の中に入り唾液中の細菌による感染を起こさないようにする為や根管内洗浄時の薬液の漏洩防止、修復処置では患歯が唾液により汚染されるのを防ぎ、乾燥状態を保つことができるので、修復物をしっかり接着させることができます。また歯科治療では小さく、先の尖った道具を使用しますし、虫歯で古い金属を外すときにのどに落とし誤嚥をさせてしまう危険があります。誤嚥防止ができるので安全に治療を行うためには欠かせないシステムです。

しかしながら150年以上も前からあるシステムで歯科医ならだれもが学生時代に習得しているはずのシステムですが、日本ではラバーダム防湿の使用率は諸外国と比べてもかなり低く、ほとんどの歯科医院では残念ながら行われていないの実情です。

②ラバーダムの利点

①でも触れましたがラバーダムにはたくさんの利点があります。単なる“防湿”だけを目的に臨床に応用されてはいません。その利点をいくつか挙げていきます。

  1. 器具・機械の誤飲・誤嚥の防止
  2. 除去金属や切削片の誤飲・誤嚥の防止
  3. 唾液による患歯の汚染防止と乾燥
  4. 出血や歯肉溝浸出液による患歯の湿潤・汚染防止と乾燥
  5. 壊死組織、感染物質(根管内からの排膿)などの誤飲防止
  6. 消毒薬の誤飲・誤嚥防止
  7. 薬液の漏洩による口腔粘膜の損傷防止
  8. 切削時の舌や頬粘膜などの損傷防止
  9. 嘔吐反射の軽減
  10. 治療への不安感排除、疲労感緩和
  11. 唾液や血液のエアロゾルや、飛沫の予防
  12. 治療のクオリティーアップ

などがあげられます。

ラバーダムをしないで治療をする場合、頬粘膜、舌、口角、唇など様々な部位を傷つけないように気づかいながら治療を行います。一方ラバーダムをして治療していれば術野に集中でき、特にマイクロスコープ下で行う精密根幹治療やダイレクトボンディング時にはなくてはなりません。医療物のドラマで心臓の手術をする際に心臓が見える部分以外は布(ドレープといいますが)で覆いかぶせているのをご覧になったことがあると思います。まさにラバーダムがそれにあたります。

結果的に治療の質が上がります。患者様にとっても、削りカスや器具の誤飲・誤嚥を予防できますので安心して治療を受けていただくことができます。 ラバーダムは患者様術者双方にとって有益なシステムであると思います。

③日本で普及しないラバーダム

かなり古いデータになりますが2003年に行われた調査によれば一般歯科医院でラバーダムを使用しているのは全国でたった5.4%しかなかく、【日本歯内療法学会】の会員ですら「必ず使用する」と回答したのは25.4%で当時のアメリカの歯科医院でのラバーダムの使用率(92%)と比べるとかなり低いことがわかります。

④ラバーダムをしない理由

J Health Care Dent(2002)の調査によるとラバーダムをしない理由の第一位は『面倒だから』34.3%、2位「患者さんが嫌がるから」18.8%、3位「時間がかかるから」16%が主な理由です。『面倒くさい』、『時間がかかる』と思っている歯科医師が多いことが印象的です。(これはあくまでも私見なのですが、患者様で練習はできませんが、できるようになるまで診療後や、お昼の休憩を活用して練習用の模型でトレーニングを積めばそんなに難しいこともなく、毎日行っていれば面倒くさくありません。歯の削る練習や縫合の練習なんかよりはるかに簡単です。

「面倒くさい」「時間がかかる」というのは保険診療で一人の患者様にかけられる時間が15分程度しか確保できない場合「ラバーダムなんて…」と思うのは無理もないことかもしれません。保険診療ではたくさんの患者様を治療しなければ歯科医院の経営が成り立ちません。よって流れ作業のような治療しか行えず、ラバーダムを行おうとは思わないでしょう。私はそういう歯科医師になりたくありません。)
第2位の『患者さんが嫌がるから』という理由は本当でしょうか?日本歯内療法学会(2003)によりますと東京医科歯科大学歯学部付属病院で歯科医師と患者様のラバーダムに対する意識調査が行われました。この調査で『歯科医師が思っているほど患者様はそれほど不快に思っていない』という結果が報告されています。

だいせい歯科医院でもラバーダムをして治療をさせていただいた患者様に伺ってみると、
「初めてこんな丁寧に治療してもらった!」
「保険とは全然違い楽だった」
「勝手に口を開けた状態が維持できるので寝てしまった」
「治療が高いわけがわかる」
などとお話しされます。
中には「ゴムのにおいが苦手」や「顎がつかれた」といわれる方がいらっしゃるのもまた事実です。
ラバーダムが日本でなかなか普及しないのはどうやら歯科医師側の思い込みのようです。
むしろちゃんと説明し練習を積んでおけば患者様には歓迎してもらえると思います。

⑤徐々に増加傾向にある日本のラバーダムの普及率

手術用顕微鏡(マイクロスコープ)の普及率も徐々に増えラバーダムの使用率も徐々に増加傾向にあるようです。

【日本顕微鏡歯科学会】の会員では根管治療でのラバーダムの使用率は57%、使用頻度は不明ではあるものの「症例によって使用する」というのを合わせると93%となりマイクロスコープを使用する歯科医師の意識の高さがうかがえます。近年30~50代の歯科医師の間でもマイクロスコープの普及が進みさらにラバーダムの使用率も上がると思います。
(※現在のマイクロスコープの普及率は10%ほどと低いのですが・・・。)

⑥海外では当たり前のラバーダム

アメリカでは1996年の研究で一般開業医で59%、歯内療法専門医で92%、2008年の研究では一般開業医58%、2009年スウェーデンにおいては『Alwaysいつも使う』67%『Routinely日常的に使う』20%、であり日本よりも使用率か高いことがわかります。

⑦まとめ

今回は一部私見を述べさせていただきました。ラバーダムが防湿の目的だけではなく、器具や機械の誤飲・誤嚥、薬品の漏洩による喉を含めた口腔粘膜の損傷の回避、エアロゾルや飛沫の防止など患者様には安全な治療環境を提供し、私たち歯科医師には術野の明視とそれに伴う治療の効率とクオリティーを上げるために必要不可欠な治療前処置であると考えます。ラバーダムは決して面倒くさくなく、患者様、歯科医師双方ににとって有益であることをお伝え出来たと思います。

保険診療では行うことのできない質の高い精密根管治療や修復治療をどうぞ受けてください。


参考図書:ラバーダム防湿パーフェクトテクニック
著:辻本 真規/INTERACTION