インプラントは大丈夫なんですか?
こんにちは。豊田市にあります、だいせい歯科医院です。
今回は患者様から『インプラントって大丈夫なんですか?雑誌に書いてあったわよ。私はやりたくないです』とお話しされましたので、インプラントはダメな治療なのかについてお話させていただきます。
目次
❶インプラントは危険な治療?
歯周病や虫歯で残念ながら歯を保存することができず抜歯が必要になってしまった場合、抜歯をした後ブリッジや入れ歯で欠損部を補綴していきます。欠損部を放置したままにすると対合歯が挺出(本来かみ合うはずの歯が移動して歯が伸びたような状態になります)してしまったり隣在歯が欠損部に向かって傾斜してしますことがあります。このような状態になると正しい位置で咬むことができなくなり、残っている歯を痛めてしまい、どんどん欠損が進んでしまいます。(残存歯が20本以下になると加速度的に悪くなりどんどん抜けてしまうリスクが高まります)ですので歯が抜けたまま放置するのは絶対にやめましょう。
そこでブリッジで治すか入れ歯で治すか、インプラントで治すかというお話になります。
それぞれの治療にはメリットもありますが当然デメリットもあります。
(リスクといった方が良いかもしれません)
ブリッジは抜けた歯の前後の歯がしっかりしてる場合には固定式にできるため入れ歯のようにはめたり、外したりするわずらわしさや入れ歯と歯茎の間に物が挟まるようなことはありません。自分の歯と同じように咬むことができます。しかしブリッジは前後の歯を大きく削る必要があります。もし虫歯にもなっていない歯だとしたらブリッジにするために歯を削ってしまうのは歯にとってはとてつもない負担になります。また削ってしまったことで虫歯になりやすくなったり、しみたりして痛みが出てしまう場合は神経を取らなくてはならなくなることがあります。削ってしまった歯は元に戻すことができません。 またブリッジは前後の歯を支台歯にしますので、後ろの歯(最後方臼歯)がすでに欠損している場合はブリッジができません。

一方入れ歯の場合はブリッジよりも適応範囲が広く歯を大きく削るということはありません(留め金をかける歯や傾斜してしまっている歯を削る必要はあります)
取り外して掃除ができるため、義歯を支える残存歯のブラッシングを行うことができます。 しかし着脱可能というメリットはデメリットにもなってしまいます。固定式でないため自分の歯のようには咬合力が働きません。歯茎の上に覆いかぶさるような形になるため、装着時の異物感が強く、慣れるまで時間がかかります。留め金をかける歯には大きな負荷がかかるため、場合によっては折れてしまったり、抜けてしまうことがあります。

このようにブリッジにも義歯にも良い面とそうでない面があります。
ではインプラントはどうでしょう?
インプラントはブリッジや入れ歯と大きく違うのは手術が必要になります。簡単にお話しすると、歯ぐきを切開し、骨にドリルで穴をあけてチタン製のネジ(フィクスチャーといいます)を埋め込む。これが歯根の代わりになります。チタン製のネジが骨としっかりくっついたらアバットメント(これが削った歯の部分に相当します)を接続します。最後に上部構造体(歯の頭の部分になります)をつけます。手術から上部構造体完成まで数カ月かかります。

インプラントは治療期間が長いこと、手術が必要なこと、インプラントは感染に弱いため定期メインテナンスや日ごろのケアが大事なことなど一見大変に思われるかもしれません。しかしブリッジでも入れ歯でも毎日のケアは必要ですし定期メインテナンスは必要です。
手術や治療期間の問題がクリアになれば、隣在歯削りませんし固定式にでき、自分の歯と同じように使うことができます。正しく行われたインプラント治療は、ブリッジや入れ歯のようなデメリットは少ないといえます。
しかしよくないインプラントはかえって体に大きな負担をかけてしまします。
簡単に言ってしまえば無理やり行われたインプラント治療は危険であると言わざる負えません。
❷インプラントは何歳から?
年齢的なくくりがあるわけではありませんが、小児はもちろん若い方へのインプラントはさけるべきです。
私たちが所属している日本口腔インプラント学会が2024年版の【口腔インプラント治療指針】というのを発表しました。これはインプラントを正しく行うための指針が細かく記載されていて、学会に所属していない先生方にも広まっています。
その中で‘『成長発育過程にある若年者に対するインプラント治療は、顎骨の成長が阻害される可能性や治療後に天然歯と上部構造の間にずれを生じる可能性が指摘される。このためインプラント治療の開始時期は慎重に検討するべきであるが、成長停止時期は個人差があるので適切な診察と検査が必要である』と指針が示されています。20歳前後でのインプラント治療は行うべきではないでしょう。また指針にはありませんが、20歳の方が80歳まで生きると過程して60年問題なく使用されてという研究調査論文はありません。
(これから長期予後の研究が発表されることを期待しています)
❸インプラントの寿命は?
世界中でインプラントが何年持つのかという論文がありますが最長でも30年以上という報告はあります。一般的には10年間で90~95%、20年で80~90%という高い成功率が報告されています。どの論文にも長く使用してもらうためには適切な手術技術と定期メンテナンス、患者様の口腔衛生や生活習慣に大きく左右されるとあります。また糖尿病などの基礎疾患や喫煙はインプラントの寿命に影響を与えるとされています。
❹ダメなインプラント(だいせい歯科医院が考える)
①事前の準備をしっかりしないインプラント
週刊誌などのメディアではたまに取り上げられて悪者にされるデンタルインプラント。ほんとにインプラントはよくない治療なのでしょうか?インターネットの中でも『大事な歯を抜かれてインプラントにされた』、『インプラントを勧める歯医者は儲け主義』など心無い書き込みを目にすることがあります。本当にそうでしょうか?お金儲けで手術する先生なんているんでしょうか?インプラントの埋入手術は骨にドリルで穴をあけていきます。そのドリルが万が一ずれたりしたら神経や血管を傷つけてしまうこともあります。神経を傷つけてしまうと高い確率で麻痺がおこります。血管を傷つけてしまうと場合によっては命の危険さえあります。お金のためにこんな危険を冒す先生はいるんでしょうか?また患者様の歯を勝手に抜いてしまう先生もいないと思います。(歯科医ならまず歯を残すことを考えます)
手術には1時間以上かかることもあります。僕は手術が控えている前日は眠れないこともあります。診療後にシミュレーションを何度も確認します。



手術の様子
半透明のマウスピースが外科用ガイドステント
インプラント治療には事前の準備がとても大切です。技工士の先生と模型や画像を見て埋入位置を決め、これをもとに手術用ガイドステント(手術に使うテンプレート)を作製してもらいます。これを手術の時にはめた状態で手術をします。そうすればインプラントは術前にシミュレーションした位置に安全に埋入することができます。こうした準備を行い手術をします。
だいせい歯科医院が考えるダメなインプラントとはこういう準備をしないで行うインプラント治療は危険だと考えます。
②何でもかんでもインプラントはダメだと思います
なぜ歯が抜けてしまったのかまたは、抜かなくてはいけないのか、全体を診査しインプラントをしてもよい口腔内の環境なのか(かみ合わせは大丈夫か、他の歯に問題はないか、前後の歯、上下の歯の状態はどうなのか)を調べずに行うインプラントは、よくないと考えます。『歯が抜けた=インプラント』ということではありません。年齢や基礎疾患の有無などではインプラントではなく義歯やブリッジ、矯正といった別な方法も考えます。インプラントを入れたのに咬めなくなったでは、せっかく痛い思いをして時間もかけて治療したのにもかかわらず、無駄になってしまいます。
③患者さん自身がケアできないインプラント
インプラントの入れる位置が良くなく患者様ご自身でブラッシングができないインプラントはだめだと考えます。そのために繰り返しになりますが術前の診査はとても大切です。咬めても汚れたままではよくありません。インプラントは磨かなくても虫歯にはなりません。しかし歯間ブラシやワンタフトブラシ(1本磨き用ブラシ)なども使用して毎日のケアができなければインプラントは高い確率で感染してしまいます。そうするとインプラントの周囲から排膿してきます。(インプラント周囲炎といいます)排膿すると口臭やお口の中がネバネバして気持ち悪かったり、インプラントがぐらぐらしだしたりしておいしく食事がとれなくなってしまいます。毎日食事をします。当然汚れます。その汚れがご自身で無理なくケアできなければ長く快適にインプラントを維持することができません。
そのために定期メインテナンスを受けて出血や排膿が起きていないか、インプラントがぐらぐらしていないか、ブラッシングの状態はどうかなどチェックを受けていただく必要があります。あわせて、歯科衛生士さんによる専門的なケアを受けていただきます。今後どのようなことに気を付けたらよいのかのアドバイスもしてくれます。
術前の口腔内全体の検査、診査、診断をした結果、他の歯のかぶせ物をやり直さなくてはいけなくなることは本当によくあります。患者様はインプラントだけだと思っていたのに、診査診断結果による【治療計画立案書】(だいせい歯科医院では患者様にお渡ししています)には他にもたくさん治さなくてはいけなく、それにより治療費も思っていたよりも高額になり、治療期間も1年以上かかるなどうんざりしてしまわれる方も少なくありません。
高い治療を押し付けられたとお叱りの口コミのコメントをいただいたこともあります。
それでもだいせい歯科医院は残存歯に負担がかからないようにしたい、おいしく食事が楽しめるようになってほしいので、何度もご説明を繰り返します。 術前に治療内容や、費用について説明を受け納得されてからインプラントはされるべきだと思います。患者様が納得されていないインプラントはどんなに素晴らしい治療がされてとしてもダメなインプラントになってしまうでしょう。
ダメなインプラントファイル




※他医院でインプラントをされた患者様。
上顎はすべて連結されており、インプラントの埋入位置が悪くインプラントの露出、感染による排膿が見られる。下顎のインプラントは当院受診時には動揺しており(抜けている状態)保存できない状態であった。残存歯の状態も悪く、歯根破折を起こしている歯や根尖病変を有する歯があり抜歯が必要となった。磨きにくい位置にインプラントを埋入されたため患者様自身でブラッシングがで来ていない状態であった。上部構造のすり減り具合から、かみ合わせがあっていないことがうかがえる。無理な力がかかり続けたことによりインプラント周囲の骨吸収が起こり、感染し脱落したと思われる。

上顎のインプラントは再治療を望まれなかったので下顎のみ義歯を作製する予定
❺まとめ
インプラントは失われた歯をもう一度根っこから作ることのできる唯一の治療法です。定期メンテナンスをしっかり受けて、かみ合わせの調整やクリーニングを受けていただければ長期にわたって安定して使用いただけます。(注:上部構造の作り替えが必要になることがあります) 術前の診査診断をしっかり行い治療計画や保証について納得がいくまで説明を受け手術に臨んでください。『何でもかんでもインプラント』、『歯が抜けたからインプラント』はダメだと考えます。入れ歯やブリッジの方がいい場合もあります。インプラントのみならずどんなに素晴らしい治療も、患者様が望んでいない治療であればそれはダメな治療になってしまいます。

術前

術後
患者様 | 50代 男性 |
主訴 | 歯がぐらぐらして痛い |
治療内容 | 抜歯後治癒を待ってインプラントを1本埋入。インプラントが十分に骨とインテグレーションを獲得後、上部構造(歯冠部)を装着 |
治療期間 | 約6カ月 |
費用 | 495,000円(税込) |
リスク | ・術後、出血や腫れ痛みが出現することがある。 ・ 正しい口腔ケアと定期的なメインテナンスを受けないとインプラント周囲炎を起こし痛みや出血、動揺、排膿が見られ脱落(抜けてしまうこと)することがある。 |